株式投資と市場研究の兜町通信   鈴田孝史

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help リーダーに追加 RSS 脱サラ3人組の居酒屋が閉店、寂しい現実

<<   作成日時 : 2007/09/02 22:34   >>

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「矢張り、終わりのようですね」
 シャッターの閉まった居酒屋の前で、ばったりと顔を合わせたこの店の常連客は、ポツリとそう語った。私も、ほんの数ヶ月間の、常連客の一人だった。
 今年3月、開店したこの居酒屋で知りあった仲なのだが、もはやこの店で歓談することはできなくなったようだ。店の前には、「都合により30日まで休みます」との張り紙が出ているが、9月を過ぎても、一向にシャッターが開く気配はない。

 流通企業を脱サラした3人組が居酒屋を開いたのだが、わずか半年で見切りをつけたのだろう。
「やがてこうなる」とは、多くの客が予想していたことではある。赤字続きであることは、容易に想像できた。客同士、店長に聞こえないように、この店の将来、というよりも、数ヵ月後のことを語り合っていたほどだ。

 脱サラとはいえ、リストラで割り増し退職金をもらったので、それを軍資金としての開店で、そもそも、サラリーマン時代に、居酒屋をやろうなどとは、当人たちは、まったく考えたこともないとのことだった。もちろん、調理師免許を持っている人とていない。それどころか、冷奴を注文すれば、ねぎを切る包丁さばきは、料理をしない私よりも危なっかしい。

 料理といっても、焼き鳥以外には、チーズ、冷やしトマト、団塊のおじさんが作ったポテトサラダ、それに、寒いときにはモツの煮込みもあったが、要するにスーパーで買ってきた袋入りの食材をサラにのせるのが仕事のようなものだった。

もちろん、飲みものはビールやチュョウハイなどで、ほかの店と変わったものがあるわけではないし、また、珍しい産直品の料理や地酒を置いているわけでもない。

要するに、商品には、なんら創意工夫の影が見られない。だったら、いっそね「おいしい焼き鳥を買ってきて、それを売れば」と、店長に勧めると、眉をしかめていたが、それは、半ば冗談だが、半ば本気でもあった。居酒屋としてではなく、コミュニケーションの場所としてのサービス業として、この店を再定義して原点を変えねば、浮上する道はないように思えたからでもある。

 団塊の店員さんは、お客に勧められることもあり、一緒にビールをあおり、タバコをぷかぷかとふかしている。お客同士も、酒をやり取りしたり、タバコの火をつけあったりと、コミュニティーの場としては、それなりに面白い店ではあった。

しかし、楽しい談論の場ではあっても、安い料理を二、三品頼むだけで、客はみな長居で、回転数は悪くなるばかり。いわば、慈善事業のような店なのだ。

 それでも、脱サラの中年のおじさんたちの開いた店だということもあり、「がんばってね」との明日はわが身のサラリーマンの同情や支援もあり、当初は、それなりの集客力があった。だが、数ヵ月後には、客数が減少の一途だった。

もともと、おいしいものがあるわけではないし、お客もそれは期待していなかったが、ただ、おいしいと思えないものを数ヶ月も食べていると、体のほうで拒否反応を示すようになり、私などは、サラミややっこなど、手の入らないものしか食べたくなくなっていった。付加価値ではなく、手間をかけず、マイナスの付加価値をつけていない商品しか、選択肢がなくなっていったのだ。

 それでも、私は時より顔を出していたが、それは、同じようなことをやろうとしていた知り合いがいたからでもある。
2年前にある大手繊維関係の大企業を定年退職した元広報マンが、
「高齢者向けの居酒屋をやりたいと思っているんです。とげ抜き地蔵のある巣鴨で店を物色中ですが、高齢者はお金も持っているし、暇もあるので、はやるのではないのかと思いましてね」
「皆さんはご存じないでしょうが、高齢者同士の恋愛などもあって、巣鴨は活況を呈していますよ」

 その話を聞いて、私を含めて何人かが反対した。
 というのも、わたしは高齢者の集まる大きな居酒屋に行ったことがあるからだ。

 ある取材で80歳代の人の話を聞くためにご自宅まで訪ねたのだが、すると「外で一杯やりましょう」といって、お天道様が高い午後の二時過ぎに飲み屋へ行ったのだ。夏の暑い日だったが、家では奥さんが節約だといってクーラーをつけさせてくれないので、「暑い日は、居酒屋へ避難する」とのことだった。

店へ入ると、すでに仲間が大勢いて、やんやの歓声で迎えられた。結局、話の途中で仲間のおじいさんたちが割り込んできて、「そんな面倒な話は、またにしろよ」といわれて、満足な取材もできなかったものである。

 その時、それとなく、周囲のおじいさんたちの注文した料理やビール、ホッピーなどを観察していたのだが、ほとんどの人が、料理もろくに頼まずに、ビールの一、二本で、2−3時間は長居する。店を出るときに、「これでは、商売にならないでしょう」と店長らしき人に聞くと、「これは夕方までのサービスだと割り切っていますから」とのことだった。

 リストラされても頑張っている人もいるだろう。昔は喫茶店、今は居酒屋をやろうとする脱サラ組みは多いのかもしれない。しかし、チェーン店のひしめく業界に、徒手空拳で乗り込めば、討ち死にするだけだろう。
 まして、差別化できる何らかの技量なくしては、いかなる商売もうまくはいかない。寂しいが、現実である。この日は、店の前であった常連客と一緒に、しんみりと、ほかの店で一杯やった。

客観的に言えば、準備不足であり、また、彼らは、流通業出身だということもあり、いい商品を作るという職人の意識に欠けていた。職人と商人の両面を備えた「職商人」ではなかった。とはいえ、まだ、60歳前である。一度の挫折で、すべてを投げ出せば、精神をも害すだろう。子供のころに歌った、「ひょっこりひょうたん島」の歌を思い出していただきたいものである。

そして、荒波をチャプチャブ、スイスイと掻き分けて前進していただきたいものである。

丸い地球の水平線に
何かがきっと待っている
苦しいこともあるだろさ
悲しいこともあるだろさ
だけどぼくらはくじけない
泣くのはいやだ 笑っちゃお
進め ひょっこりひょうたん島
ひょっこりひょうたん島
ひょっこりひょうたん島


 なお、拙著に「どん底から這い上がった男たち」がある。成功したり、失敗したりを繰り返してきた漢(おとこ)たちの物語である。何年も前のものだが、興味ある方は、ご参考にー。

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